フレックスタイム

/ 翻訳者・著述家

よく、就職活動や仕事探しで求人情報を見ると、勤務条件に「フレックスタイム」とか「フレックス制」とか書いてありますよね。

一定の時間枠の中で、決められた時間きちんと働けば、出社時間や退社時間はうるさく言わない、という制度。

私は以前、これをすごくおしゃれで物わかりのいい、海外から来た勤務制度だと思っていました。
求人欄に「フレックス」とか書いてあると、何かカッコいいな~と思ったり。

ですが、実際に毎日通勤するようになって、初めて気が付きました。

毎日車で通勤していると、定時出勤なんて、ほぼ不可能です。

一週間の半分ぐらいは、どこかで渋滞が起きている。

誰かが事故を起こしていたり、信号が故障していたり、道路工事をしていたり、まあ理由はいろいろですが、車社会の場合、何時に家を出れば必ず何時に到着できる、ということが予測できない。

「あれっ、今日は早く着いたな」と思う日もあれば、「げーっ、渋滞に巻き込まれた」と思う日もあり、30~40分のばらつきが、どうしても出てしまうんですね。

日本では、定時出社という概念がまず存在し、これが可能であるという大前提があったうえで、そんなカタいことは言わないよ、というからこそ、フレックスタイムを「いいね!」と思うわけで、アメリカの場合、定時出社なんて選択肢そのものがない。

それに、これだけの交通量なので、ある程度時間差出勤をした方が、渋滞を防げる。

車社会という背景に基づく、限りなく実用的な、必然性から生まれた制度だったわけです。

カッコいいとか物わかりがいいとか考えていた私は、視点がずれていたと申しましょうか、表面的な部分しか見ていなかったんだな、と思い至りました。

まあ、どの国に住んでも、生活して行くということはそれなりに大変なことなわけで、カッコいいとかおしゃれというイメージで語れるような生やさしいものではない、ということでしょうかね。

物事には何事も理由と必然性が伴うんだな~、ということを、あらためて実感いたしました。

あと、周囲から見える景色と、本人が実際に経験して見た景色とでは、見える景色が全然違うんだな、ということもね。

いや~、経験してみないとわからないことって、たくさんあるものですね。

そう言えば、「経験しないとわからない」で思い出したのですが、フレックスタイムの対極にある、「定時出社」とか「定時出発」っていう概念も、日本に住んでいる皆さんは、当たり前のように理解していると思いますが、これも、教えられないとわからない概念である、ということを実感したことがありました。

5年ほど前に、ダンナの弟が初めて日本に遊びに来てくれたときのことです。

この義弟、私よりも一回り以上年下で、最初に会ったのは、私が留学生のときでしたから、義弟はまだ12歳ぐらいだったのかな?

初めて会った当時、誕生日を迎えていた私に、「何歳かわからないけど、お誕生日おめでとう」と言って、初対面の私に、クレヨンで描いたバースデーカードと、ザ・シンプソンズのアニメキャラが付いたど派手なソックスをプレゼントしてくれたことを覚えています。

あれから20年・・・

今はもう私なんかよりもずっと背が高くなって、あんまり会う機会がなくなってしまったのですが、そんな義弟が、初めて日本に来てくれることに。

義弟にとっては、日本だけじゃなく、生まれて初めての海外旅行。
期待に胸が大きく膨らみます。

二週間の滞在期間中に、日本全国を見てやろうと息巻いて、国外の旅行者しか買うことのできない、ジャパンレールパスという観光客向けの特別切符を買ってきました。

これで京都と広島に行くんだ、と、ものすごい張り切っている。

もう30だから、一人で行ってもらってもよかったんですが、やっぱり初めてだし、はるばる会いに来てくれたわけですし、日本語も全然できないので、ダンナと私も同行しようと思って、旭川駅へ行って、三人分の切符と座席を予約しました。

そして、出発日当日の朝・・・

朝X時に電車が出るから、Y時までには駅に着いて、改札を通って座席に座って、お茶を買うぐらいの余裕は欲しい、そう考えて逆算すると、Z時には家を出た方がよさそう、と打ち合わせをしてあったのに、Z時近くになっても全然急ぐ気配がないのです。

最初は遠慮がちに見守っていたダンナと私も、「ちょっとわかってんの~、Z時までには家を出ないと間に合わないよ」ときつい口調になってきました。

すると、急かされてムッとしたのか、「オレのスケジュールぐらいオレが決める」とか言い出した。

ちょっと待ってよ。

好きにしてくれて結構だけど、電車は待ってくれないんだから。
ここはアメリカとは違うんだから。
オレのスケジュールじゃなくて、こっちが電車のスケジュールに合わせないといけないんだよ。

だけど、それがどういうことなのか、いくら言ってもピンと来ないらしい。

駅までのタクシーを手配する頃になって、ようやく事の重大さを理解したようで、慌てて荷造りを始めた。

でも、焦って詰め込んでいるから、ぐちゃぐちゃ。

駅の窓口には何とか辿り着いたものの、「レールパスがない!」という騒ぎに。

国内では買い直しができない切符だし、もう万事休す。

結局、京都行きはおじゃんになり、私たちはスーツケースを下げたまま、来た道を家へと引き返すことになってしまった。

口もきけないほどがっかりしてしまった義弟は、「切符が外に落ちてるかもしれないから、探しに行ってくる」と言って、家から出て行ったまま、しばらく帰って来なかった。

何と言って慰めたらいいのだろう・・・。

言葉も通じないし、ひょっとして迷子になったんじゃ・・・と心配し始めた頃、ようやく玄関先にのそっと姿を現した。

手には近所のリサイクルショップのロゴがついた紙袋を持っている。

「どこへ行ってたの~」と言う私の問いには答えずに、「これあげる」と言ってその袋をくれた。

開けてみると、くまのプーさんに出てくる、ロバのイーヨーのぬいぐるみ。

しかも、ドぎついパープル色。

「プーさんが好きって言ってたでしょ?」と義弟は言った。

「でも、イーヨーしかなかったんだよ。

ごめんね。」

私はイーヨーの頭を撫でながら、義弟の顔を見上げた。

「気にしなくていいんだよ」と私は言った。

「次回来たときのお楽しみにすればいいよ。」

・・・何だかしょんぼりしたイーヨーの顔が、12歳の頃の義弟の顔に、ちょっと似てい
るな、と思った。

「フレックスタイム」への 4 件のコメント

  1. SECRET: 0
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    あ~最後のイーヨーが切ないっすー・・・(T_T)それでその「次回」というのは実現したのでしょうか。是非またもう一度日本に行って、今度こそ京都と広島に行って欲しいです。しかしアメリカ人とて、さすがに飛行機に乗るとなったら遅れちゃまずいの分かってると思うんですけど、電車となるとピンとこなかったんですね(ノДT)
    物事には何事も理由と必然性が伴うんだなっていうの、ほんとですよね。日本からアメリカに行ったばかりの頃は、表面だけ見て「なんでこうなんだろう、日本だったら・・・」って色々比べて時に不満に思ったりもしましたけど、ぜんぶ理由と必然性があるからなんですよね。

  2. SECRET: 0
    PASS:
    外国の方なんですね(^O^)
    フレックスタイムは映画で見て、外国は自由でかっこいいな~なんて憧れたもんです
    日本の会社は定時出社、に仕事が始められるように、それよりも早く行かなきゃいけないですよね(^_^;)大抵は。。
    ギっチギチな規則で縛られてるし、常識、普通は~みたいなことを押し付けられるし。。
    あ~早く独立したい(≧∇≦)結論

  3. SECRET: 0
    PASS:
    >さっちまんさん、コメントありがとうございます。いや~、それがまだ「次回」が実現していないんですよ。私たちがアメリカに戻ってきてしまったもので、保留になっています。このブログを書きながら、いずれ一緒に日本に行くのがいいのかな~、などと思いました。一般のアメリカ人にとって、日本はなかなか遠い国ですが、何とかリベンジしてもらいたいものです。
    物事には何事も理由と必然性が伴う、って、海外に来て「そうだったのか!」とカラクリがわかると、つくづく実感しますよね。イギリスでもそう思うことってあるんだろうなあ。私はイギリスには結局半年ぐらいしか滞在しなかったので、生活者の目線で「こういうことだったのか」と納得するところまで行きませんでした。残念です。こういうことって、ある一定期間、生活してみないとなかなか気づかないですよね。さっちまんさんのイギリスでの気づきがあったら、聞いてみたいです。テキサスと比較してどうか、っていうのも興味あります。

  4. SECRET: 0
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    >ゆきえんさん、そうなんです。うちのダンナはアメリカ人。でも、大福とか梅干しが好きで、私以上に日本人的で、日本に帰りたいといつも言っています。
    会社勤め、お疲れ様です。確かに日本は「普通は~」って多いですよね。「普通は~」という親からの説教にはいつも泣かされました。あと、「みんなXXだから」「前例では~」というのも得意技。みんなって一体誰だよ??名前挙げてみれ!と思っていたものです。

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