すばらしい日本のコンビニ

/ 翻訳者・著述家

日本には当たり前のように存在するが、実はとっても優秀なものを3つ挙げろと言われたら、私だったら迷わず、お風呂、ウォシュレット(音姫も含む)、それにコンビニを挙げると思う。
特にコンビニは、入国審査を終えて空港ロビーに到着すると、真っ先にお目にかかれる最初の到着ゴール。
コンビニのドアを開けて、雑誌やおでんなどが並ぶカウンターを見ると、それだけで「あ~無事に帰ってきた~」と肩の力が抜けて、ほっとした気持ちになる。
いろいろな味のおにぎりやお茶が買える喜び。
日本にお住まいの方は、当たり前だと思うかもしれないが、とんでもない話である。
そして、「おにぎりあたためますか」と聞いてくれ(←これって、本州でもそうでしょうか?)、わざわざ自分で封を切って温めてくれ、お弁当に箸を付けてくれる店員さん・・・。
コンビニでここまで細やかなサービスが受けられるなんて、世界でも日本だけだと思う。
日本のコンビニがどんなにすばらしいかということを、日本の皆さんはご存知なのだろうか。
・・・・・・
私事になるが、私は昨年11月に、父を亡くした。
10月上旬に休暇で2週間日本に帰ったときは、父はまだ元気で仕事を続けていた。高齢なのでそれなりに問題は抱えていたが、一緒に札幌で食事や買い物をするほど元気だった。
ところが、私が休暇を過ごしてアメリカに戻ってから2週間後に、職場前で転倒して骨折し、救急車で病院に運ばれた。
骨折の手術自体は成功したが、長時間の全身麻酔がよくなかったのか、その後で血流障害を起こして危篤に陥った。
休暇が終わって日本から戻ってきた直後で、とんぼ帰りも同然になってしまうので、再び日本に帰国させてもらえるか心配だったが、父危篤の旨を会社に相談すると、仕事よりも家族を優先させなさいと言って、嫌な顔ひとつせずに快く送り出してくれた。
私の仕事も日本語チームの同僚が分担して受け持ってくれることになり、日本から連絡をもらった翌日には、日本行きの飛行機に乗ることができた。
3日後に ICU(集中治療室)で、体中に管をたくさんつけた父と対面した。
父は私が飛行機に乗っている間に、さらに2回手術を受けていた。
私が帰国するまで生きて待っていてくれたことは本当に嬉しかったが、全快して元気に退院できる見込みがほぼゼロに近いことは、素人の私でも理解できた。
それでも意識が戻って、意思の疎通ができるようになるかもしれない、とわずかな希望を抱いて、母と弟と私は、ほぼ毎日、入れ代わり立ち代わり見舞いに通った。
重苦しい毎日だった。
こんな状態が、いつまで続くのだろう。
先の見えないトンネルの中を歩いているようだった。
助かってほしいけれど、そうなったらなったで、長い介護の日々が始まるのだろうか。
あんまり長引くようだったら、今働いている会社も、辞めなければいけないかもしれない。
とりあえず、私の仕事をやってくれている先輩に、お詫びとお礼のメールを出した。
父の回復の見通しがつかないこと。
主治医の先生は、一週間以内にICUを出ることを目標にしたいとおっしゃっているが、医師である弟の見解はもっと悲観的であること。
入社したばかりなのに迷惑をかけて、申し訳ないと思っていることなどを書いた。
先輩は理解のある方で、
自分もいずれ家族に似たようなことが起きるかもしれないから、今は家族を最優先させてほしい、
そして会社のことは心配しないで看病に当たってほしい、などとあたたかい言葉をかけてくれたのだが、
それに加えて、ちょっと不思議なことを書いてきた。
「病院とご自宅との往復は、大変だろうけれど、たまには短時間でもリラックスして無理なさらないでください。
せっかく日本にいらっしゃるので、おいしいものを食べたり、少しでも楽しいことをなさってください。
日本だと、コンビニに行くだけでもおいしいものがたくさんありますね。」
最初に読んだとき、何だか面白いことを言うな、と思った。
コンビニに行って楽しめ、なんて。
日本に住んでいる人だったら、こんな慰め方はしないですよね?
でも、病院通いが毎日続くうちに、意外にこの言葉が大きな意味合いを持つようになってきた。
生死の境を彷徨う父の姿を見ていると、どうしても、悪い方へ、悪い方へと考えが行ってしまいがちになる。
どっちに転んでも、ハッピーエンドではないのだ、と思うと、絶望の無限ループに入りそうになる。
でもそんなときに、「いやいや、くよくよ考えていてもしょうがない、とりあえずコンビニに行こう」と病室を抜け出し、病院内のコンビニへ行く。
そしてぼんやりとおにぎりを見たり、雑誌を手に取ったりしているうちに、「そうだよな~、日本のコンビニに行けるということは、海外組の仲間から見たら全然当たり前のことじゃないんだ。
今回の帰国だって、みんなが協力して支えてくれなかったら、実現しなかったこと。
せっかく日本にいるのだから、先輩が言うようにコンビニを楽しんで元気を出そう。
暗い顔をしていたら、快く送り出してくれた海外の同僚や主人に申し訳ない。」
・・・そんな気持ちになり、不思議と元気が湧いてくるのだった。
そして、海外で暮らす人にとって、親の死に目に立ち会えるということが、どんなに難しいことであり、
海外で働く私が、父が最期を迎えるにあたって、このように何度も病院に見舞いに来られるということが、どんなに恵まれていることか、ということを、コンビニに行くたびに実感させられ、感謝の気持ちを新たにした。
父が力尽きて天に召されるまでの一ヶ月半、日本とアメリカを三往復して、肉体的にも精神的にもいろいろな面で限界を感じることが何度もあったけれど、くじけそうになるたびに、コンビニに行って疲れを癒し、絶望を感謝とささやかな希望に変えて、翌日へのエネルギーにした。
コンビニに行けば、病院への「とぼとぼ」と言う重い足取りが、出てくる頃には軽やかとまでは行かないまでも、「すたすた」に変わっているのには、自分でもびっくりした。
そんな力をくれる日本のコンビニは、やはり偉大だ。
父は天国へ旅立ってしまったけれど、コンビニに行けば元気をもらえるという学習体験は、私の中に残った。
今度日本に帰るときには、父にはもう会えないけれど、日本のコンビニが私を待っていてくれる。
そう思うと、日本に帰るのが、楽しみである。
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「すばらしい日本のコンビニ」への 7 件のコメント

  1. SECRET: 0
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    ほんと、アメリカのセブンイレブンって入口は日本とほぼ同じだけど、中に入るとほんとうにがっくり来ますからね。特に日本から帰ってきた直後(私にとってすでにアメリカは私が帰る国です)だと、その格差が大きくてがっくり度もはんぱじゃない。おにぎり、お惣菜、肉まん、お弁当、あーあ。でもでんぷん質を拒否できず食べると即太る体質なので、ここにそんなコンビニがあったら、たいへんなことになっているかも、と自分をなぐさめています。

  2. SECRET: 0
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    >akichanさん
    ほんとにセブンイレブンなんて、アメリカが発祥の地なのに、なんでこんなに差が開いちゃったんでしょうね。確かにお弁当系はカロリー高いですが、最近はカロリー表示もしてますからね。セブンイレブンのおでんでダイエットしたこともありましたよ。こんなこと書いていたらおにぎりが食べたくなってきました。

  3. SECRET: 0
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    そうでしたか、お父さんが亡くなってまだ間もないんですね。だけどお父さんが亡くなった後で、他の家族を残してまた自分は海外に戻らなくてはいけないのは、これまた辛かったのではないかと想像します・・。ロンドンだと、ジャパンセンターとかにコンビニおにぎりやお弁当が並んでいるので、行く度にロンドン在住の方々が羨ましくなります。読んでいたら私も無性におにぎりが食べたくなり、実は作って食べました(笑)。梅干は家にないので、シーチキンおにぎりです。でもコンビニのシーチキンおにぎりとは全然違うんですよね。なんであんなに美味しいのかな~。

  4. SECRET: 0
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    >さっちまんさん
    コメントありがとうございます。まあ母が一人になってしまいましたが、ちょっと同居するわけにも行かず・・・。弟が近くに住んでくれているのでありがたい限りです。若い頃は考えたこともなかったけど、年を取ってくると、いろいろ考えさせられることが増えてきますね。
    コンビニのおにぎり、おいしいですよねー。日本から逆輸入すればいいのにと思うぐらい・・・。聞いた話では、オースティンの日本食品専門店でコンビニみたいなおにぎりを売り始めたそうなんですが、いつも常連のオタクのお兄さんが買い占めてしまうそうで、実物を見たことがありません。高いし。今度帰国されたときに、丸美屋のソフトふりかけの「ツナマヨ」を日本で買ってくるといいですよ。ちょっとだけ日本のコンビニのツナマヨおにぎりの味がしないでもないです。

  5. SECRET: 0
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    これ、よくわかります。というか、これを書くかどうか迷ったのですが。
    母を癌で失ったとき、最後のほうはホスピス病床のある病院で、2週間ちょっと寝泊まりしていました。
    母には病気を告げず、でも、自分ひとりで自宅での介護は無理だったからの選択でした。
    夜、というか午後からは泊まり込み、私のいない時間帯については、すでに嫁いでいて、幼い子たちを抱えていた妹や、母の実妹のうち、県内に住んでいた一番下の妹(叔母)や義妹やに来てもらったりもしていました。最後の何日かは、妹と叔母(母の実妹と義妹)で1日中。
    そんなとき、病院の近くにあるコンビニに叔母たちのご飯にと妹と出かけていました。自分は食べたのか、寝たのかわからない時でしたが、いっしょに母を看取ってくれようという自分以外の人たちに食べ物を選ぶことだけでも、そしてその他のものに目を触れるだけでも、少しだけ日常に戻れた時間だったかも。

  6. SECRET: 0
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    >baba-nekoさん、ご家族の大切な話をシェアしてくださってありがとうございます。そうですか。ばば猫さんも大変でしたね。
    本当に、年を取ってくると、若い頃は想像もしなかった経験に遭遇しますね。誰もが通る道とは言え、親を看取るというのは、慣れることができないし、看病する側もすごくストレスがたまりますね。看病という非日常の中で、コンビニは本当に束の間の息抜きができる憩の空間でした。外に出なくてもいいし、本当に便利ですよね。
    あー、セブンイレブンの納豆巻きが食べたくなってきた。

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