こなれた翻訳とくずれた翻訳

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皆様、こんにちは!ランサムはなです。

このところ、某ホテルチェーンに関連した翻訳案件に参加させていただいています。

と言っても、最初にお声をかけていただいたのはもう5年ほど前になりますが・・・。

マーケティング案件なので、コピーライティングとまでは行かないまでも、読者の心に刺さる言い回しが求められるので、かなりこなれた翻訳が必要になるんですよね。

ちょうど技術文書だけでなく、本格的にマーケティング分野にも仕事の幅を広げようとしていた時期にお話をいただいたので、上手な翻訳者と組んで勉強させていただこうと思ってチェッカーとして参加したんですけど、気がつくと結構な古株になっていた私(汗)・・・。

これまで大御所とも言うべきメインの翻訳者さんが2名いらっしゃって(AさんとBさんとしましょう)、そのお二人の文体がこの案件の土台になってきたところがあるんですけど、このところなぜかそのうちのお一人を見かけなくなって、近年はもう一人、Cさんという別の翻訳者さんの存在が大きくなってきた印象でした。

皆さんとても文章がお上手で、この翻訳会社、優秀な翻訳者を見つけるのが上手いな~と感心するほど。

ところがこの前、たまたまAさんとCさんが翻訳された2つのファイルを同時にチェックする機会が重なって、比べるつもりはなかったんだけどお二人の翻訳を並べて拝見していたら、なんか目に見えて違うんですよね。

なんていうか、二人ともこなれた翻訳なんだけど、大御所さんの方は「こなれる」を通り越してくずれかけてる部分が散見されるというか・・・。

う~ん、何だか怖いな~と思いました。

翻訳者って、みんなそれぞれ決まったスタイルがあって、文体は変えられない、という話をよく聞きます。「変えてもらおうと思っていろいろ注文をつけても、変えられないんだよね」って某エージェントの方がおっしゃってたのを思い出します。

昨年秋、ある有名な文芸翻訳家の方にお会いしたときに「ご自身の翻訳が変わったと感じることはありますか?」って質問したときも「いや、ない」とおっしゃっていました。

ただ私の場合、一度だけ自分のスタイルが変わった、と自覚したことがあるんですよね。

開業して10年ぐらい経った頃、ある日突然、いつものように翻訳しようとしたら、急にこれまで翻訳調で硬かった文体が、角が取れて丸くなったというか、滑らかになった感じがしたんです。長~い間原文に縛られていたのが、不要なぎこちなさが取れて、翻訳調が薄らいだというか・・・。私個人としては「自然な文章」が生まれるようになって、ブレークスルーのような気がしたんです。

これって「翻訳者って文体変えられないんだよね」っていう一般論に反するので、私一人変なのかなと思っていたんですけど、友人に話したら「いや、不思議なことではないんじゃない?マルコム・グラッドウェルという人の『Outliers』(邦題『天才! 成功する人々の法則』)って本を読んだら、誰でも1万時間練習すれば、師匠ぐらいのレベルにはなれるって書いてあったよ」と言われたんですね。

それを聞いて、まあ朝から晩までひたすら翻訳三昧というのを来る日も来る日も繰り返していた以上、1万時間ぐらいの作業時間はとうに超えているので、まあ1万時間を超えた時点で初めて見えてくる世界というのもあるのかもしれない、と自分で納得したわけなんですが・・・。

皆さんはそんな経験、ありませんか?

でも、「正確だけど翻訳調の硬い文体」→「正確で、かつこなれた文体」に進化した後、気をつけないと「くずれる」になっていく危険があるんだな、というのを、今回大御所さんの翻訳を拝見していて実感させられました。

結局人間って、仕事も人生もそうだけど、同じままでいることはできないんだと思う。

進化していくか退化していくか、どちらかしかないんですよね。

現状維持で変わっていないと思っても、水面下で必死に水をかくアヒルのように、変わらない努力をしているからそう見えるだけで、実際には何もしないで同じ状態を保つことはできない。

実は、レベルアップした、と実感した後こそが、危険なのかもしれません。

実はこなれた翻訳とくずれた翻訳って、紙一重なのかもしれない。

こなれた翻訳ができるようになった後、慢心して雑になったり、くずれてしまったりすることがないように・・・。

自分も気をつけなければ、と気を引き締めた一件でした。

2件のコメント

  1. OMA より: 返信

    はなさん、こんにちは。いつも貴重な長年の翻訳者経験を惜しむところなく書いてくださるので、同業者としてうんうん!とうなずきつつ、そうかそうかと心を引き締めて読んでいます。
    今回の同感は「ブレークスルー!」。私もあったかもなぁと感じています。実は、はなさんとともに現在進行形で関わっているクライアントのプロジェクト中に、それがあったと思ってまして、優秀なお手本を拝見できる機会があったからだと思っていますが、同時に、参加1年目くらいの自分の訳文がメモリーで登場すると「堅苦しい!」と手を入れたくなったりします。ただ、成長している分にはいいんですが、やっぱりその続きとして慢心につながらないようにしないといけませんね!気をつけます。
    そのうち、慢心せず成長する翻訳者についてのブログ記事をお待ちしています(笑)!

    1. RansomHana より: 返信

      コメントありがとうございます!やはりブレークスルーって、多くの翻訳者さんが実は経験することかもしれないですね。翻訳者さんの中には対抗意識をお持ちの方もいらっしゃるようですが、私はむしろ翻訳は最初から完成形なのではなく、経験を積んで伸びて行く部分があると思っていますし、優秀な翻訳者から学べるというのは恵まれた環境だと思います。そういう意味でも上手な翻訳者さんと組むというのはとても大事ですが、自分が先頭に立ったときにどうやってモチベーションを維持していくか、というのは永遠の課題になりそうですね。これからもよろしくお願いします!

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