今でこそスマートフォンが普及して、日本でも「スマート」という言葉が一般的に使われるようになってきた感があるけれど、この「Smart」という言葉の訳出には、ずいぶん泣かされてきた。
英語のハイテク記事や販促資料のライターは、この「スマート」という言葉が大好きだ。
「賢くて、洗練されていて、気が利いていて、カッコよくて、高機能」という意味が一語に凝縮されているわけだから、まあ新製品の紹介記事で宣伝文句としてさかんに使いたい気持ちもわかるのだけど・・・。
スマートフォンなんかも、ガラケーと比べて、ほら、いろんなことができるんですよ、賢いし、カッコいいし、時代の先端を行っているし、すごいでしょう???・・・(さらに、「欲しい気持ちにならないアナタはダサい!」みたいな裏の意味を感じ取ることも・・・)ってなことを言いたいようだ。
しかし、訳すときは、そんなにたくさん意味を並べ立てるわけにはいかないし、そんなおちゃらけた英語の文体をそのまま訳しても、日本では売れるどころか逆効果だったりするから、落ち着いたトーンにして「高機能」ぐらいにまとめることが多い。
注意しなければいけないのは、「スマート」という言葉が、日本では「やせている」という意味で長年使われてきたことだ。今はあまり聞かないけれど、「スマート」という言葉は、一昔前まで「やせている、スリムである」とか「流行の、おしゃれな」という意味の褒め言葉として使われていた。こういうふうに、日本語として意味が確立されている(いた?)言葉を新しい意味で訳すときは、特に気を使う。
今は「スマートフォン」、「スマート家電」など、電化製品やコンピューターシステムの形容詞として使われることが多いが、いずれは日本でも「スマート」という言葉が、英語の原文とほぼ同じ意味で使われるようになる日が来るのだろうか?
時代と共に言葉は変わる。「スマート」という言葉も、今後の変化に注目していきたい表現の1つだと思う。