皆様、こんにちは!ランサムはなです。
無事にアメリカに戻って来たんですが、今回は時差ボケから回復するのに時間がかかりました。
いつも思うのですが、日本に行くときの方が、逆行しないせいか?時差ボケからの回復に時間がかかりません。アメリカに戻って来るときの方が大変・・・。
おかげさまでだいぶ落ち着いてきました。
ところで先日、仲良しの翻訳者のヒロムラタさんが「翻訳をする上で専門知識は必須か?」って記事を書いておられて、とっても興味深く拝見しました。
「理系で専門分野がないと、翻訳者として食べて行けないのか?」
「文系で専門がないので、翻訳者として食べて行くことはできないのでは?」・・・って、翻訳業界では結構盛り上がる話題です。
私なりの結論を先に言っちゃうと、「文系でも翻訳者として食べて行くことはできます」。
でも、それだけでは説明が足りないので、少し補足させてください。
私はコテコテの文系翻訳者で、駆け出しの頃、同じ心配を抱えていました。
何しろ英語教師→日本語教師→翻訳者になったクチですから、理系の専門知識が全然ない。
私が得意とするのは、日本人・外国人を問わず、外国語学習者に「噛んで含めるようにわかりやすく説明して聞かせる」ことです(それも技術と言えば技術なんでしょうけど・・・)。
なのでいつも自分は、翻訳者としてどこか力不足で、「欠け」を抱えている、と思っていました。
力がない分は、熱意と誠意で補うしかないと思っていたので、お仕事をいただいたときは全力で取り組むように心がけていました。
で、あるときいつも仕事を下さるエージェントの方に、「私、理系じゃないのにいつもお仕事を下さって、どうもありがとうございます」とご挨拶に行ったことがあったんですね。
そしたらそのエージェントの方、びっくりするようなことをおっしゃいました。
「いや、はなさんは原文に忠実に翻訳してくださるので、安心して発注できるんですよ。
実は下手にプログラマーとかエンジニアのバックグラウンドがある方を雇うと、内容がわかっているからと言って勝手に書き換えちゃう人がいるんです。
1つ1つは小さな変更でも、積み重なると原文からかなり逸脱した文書ができてしまって、結果的に僕らがお叱りを受けるんです。
で、お叱りを受けたことを知らせるために、翻訳者にフィードバックを送ると、妙にプライドが高いものだからヘソを曲げられてしまって、本当にやりにくい。
だから、原文に忠実に翻訳してくれる翻訳者の方が、僕らとしては一番仕事がしやすいんです」
私の立場を思いやって言ってくださっただけかもしれませんが、こんな温かいコメントをいただけるとは思っていなかったので、目から鱗でした。
私としては詳しい専門知識がないものだから、ひたすら原文に歩み寄るしかなかったんですが、それを却って高く評価していただけた、というのが驚きでした。
「翻訳者は、内容について批評をしたり、内容を書き換えたりする権限はない。」
(↑明らかな間違いについては、納品時に送り事項として伝達することはできますが・・・)
そういう基本というか、立ち位置を教えられた気がしました。
とはいえ、だからと言って、専門知識はなくても大丈夫と開き直っていいかというと、それは違うと思います。
専門知識があるにこしたことはない。
それは紛れもない事実だと思います。
ただ、もっと大切なのは、翻訳者ってあくまでも影武者という立ち位置だから、翻訳者自身が出しゃばってはいけない。
原作者よりも強烈な存在感が出てしまうと、煙たがられるのではないでしょうか。
「どうしたら原作(者)を立ててあげられるか」という謙虚な姿勢で歩み寄ることが、実は一番大事なのではないかと思います。
それに長年やっているとわかりますが、時代の流れに伴って、翻訳の需要って変わり続けるんですね。
私が翻訳業を始めた当時は、某OSのソフトウェア文字列やマニュアル、ショッピングサイトを構築するソフトのオンラインヘルプなど、コンピューター関連の案件が主流でした。
そちらが一段落すると、今度は音声認識ソフトやストレージなど、周辺機器の取説の案件が続きました。
その後、従業員向けの研修文書とか、人材育成マニュアルとか、ホテルのホームページの案内とか、Eラーニングとか、ソフトなコンテンツへと需要が変化して行きました。
最近では「日本語化が進んでいない最後の市場」と言われていた医療分野の案件が増え、医療機器とかロボット、AIに関連した案件の打診も来るようになっています。
つまり、需要は刻一刻と変化しているのです。
生活がかかっている翻訳者として常に最前線に立ち、仕事を継続的にいただくためには、専門分野を極めることと同時に、時代と一緒に変化していくことも求められていると思います。
それにいくら専門分野があっても、技術は進化し続けるので、何もしないと手持ちの知識は古くなっていく一方です。
ですので、このようなことを考え合わせると、「専門分野はあるんだけど、幅広くいろいろ新しい分野にも対応・挑戦できるよ」という柔軟な学びの姿勢を崩さないことが、産業翻訳者として稼ぎ続けるための最強の心構えではないかと思います。
最近、『プロが教える技術翻訳のスキル』(2013年、講談社)という本を読みました。この本は数人の現役翻訳者がそれぞれの分野(電気、IT、化学・バイオ、電子工学)の立場から、技術翻訳に関心のある読者、これから翻訳者になりたい読者に向けてさまざまなアドバイスをしているものです。この本の中にこちらの記事にも通じることが述べられています。つまり、向上心と好奇心を持つことがよい翻訳者の条件の一つであるということです。かく言う私も文科系でありながら技術翻訳を職業としていますが、科学が好きで昔はSFを読んだりしていて、今はTVの科学番組をよく見ています。ネットの時代ですので、翻訳に役立つ情報はウェブサイトでも入手できますが、東京近辺ではいろいろな分野の展示会が開催されており、時間があればそのような展示会(たいていは事前登録で無料)に積極的に行くようにしています。(まあ、第一の目的はノベルティなんですけどね…)あと、博物館、ショールーム、工場見学なども役立つと思います。
コメントありがとうございます!やはり産業翻訳者は知識が古くなっては使い物にならないので、常に学んでいく姿勢が大切ですよね。展示会や博物館、ショールームも役に立ちますよね。ノベルティ目的というのも楽しいですよね(笑)。これからもどうぞよろしくお願いいたします!
なるほど。原文に忠実に翻訳することがポイントなんですね。翻訳の知識があまりないので、とても勉強になりました。