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字幕翻訳者・戸田奈津子さんの翻訳について考えたこと(3)

戸田さんの誤訳にはどんなものがあるのか、具体例をちょっと調べてみた。
映画評論家の町山智宏さんが、戸田さんが「ma’am」を「マダム」ではなく、「お母さん」と訳している、と指摘しておられた。
ご存知の方もおられると思うが、「ma’am」(マァム)は男性が女性に対して礼儀正しく接したいときに使う表現で、「さようでございます、奥様」みたいな意味合いがある。レディと呼んで差支えない年齢に達した女性であれば、相手が未婚でも既婚でも使える数少ない敬語表現の 1 つで、いわば、女性に敬意を払っていることを示す、最大級の賛辞だ。
店員さんがお客さんに呼びかけるときにも使われる。筆者もちょうど数日前、自動車専門店に行って、バッテリーを替えてもらったときに、「古くなったバッテリーを引き取ってもらえますか?」と聞いたところ、即座に「イエス、マアーム」と返事が返ってきた。
「ma’am」は「マダム」という意味であり、うやうやしくお辞儀をして・・・という動作が伴わないにしても、そういった気持ちを込めて使う表現なので、そんな状況で「お母さん」なんて訳してしまったら、冷や汗ものだ。
アメリカで暮したとか、アメリカを中・長期間訪れた経験がある人なら、一度や二度はお店で「イエス、マアーム」を聞く機会はあるはずなので、間違えようがないと思うのだが、戸田さんとしては、「ママ」の意味である「mom」や「mum」(マム)にちょっとばかりつづりが似ているものだから、「あら、ちょっとマムとは違うけど、きっとママの変形ね。スラングとか方言かしら?」なんて思って「お母さん」にしてしまったのだろうか???
意外に凡ミスである。
それで思い出したが、テキサス出身のレネー・ゼルウィガーという女優がいる。この人の「Renee」という名前は、2つ目の「e」にアクセントがついていて、アクセントがなければ「レニー」という発音になるところを、あえて「レネー」と読ませている。
彼女の名前も、戸田さんが最初「レニー」と呼んで日本に紹介したので、しばらく「レニー」と呼ばれていたが、レネー本人が「私はレニーじゃなくてレネーだ」と言ったことから、訂正されたということがあったとどこかで読んだ。
この「レネー」という呼び方にしても、ご当地では珍しい名前ではないので(私のホストファミリーの姪もレネーだった)、間違えようがない。
それにしても、あの戸田さんの誤訳というから、どんなに難しい表現を間違えたのかと思ったのに、フタを開けてみると、知っていれば間違えようのない凡ミスなので、逆に驚かされる。
こういうのは、留学経験とか海外生活の経験がないことによる経験値不足なのかなと思う。
しかし、「ちょっとつづりが似ているから」とか、「アクセント記号はついているけれど、eeは『イー』と発音することが多いから」とか、自分の知識を過信して、関係のない表現をこじつけて訳してしまうというのは、締切に追われているときなど、翻訳者がやってしまいがちな間違いではあるので、私も注意しなければ・・・と思う。
続きます。

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