里田まいちゃん、がんばれ！(2)

（前回からの回想シーンの続き）
初日からコミュニケーションの食い違いで空港で長時間待たされ、前途多難を予想させるかのような幕開けとなったアメリカ生活。
英語習得はもっと大変だった。
相手の言っていることが速すぎて、聞き取れない。
速いだけでなく、単語と単語がくっついて、団子のようになって聞こえるので、音を拾えても意味がわからない。
絡まった毛玉のように聞こえる文章を解きほぐすために、何度も聞き返すのだが、相手だってそうヒマではない。
途方に暮れることが、何度もあった。
ホストファミリーには、4歳と9歳の子供がいた。
子供は普通、難しいことを言わないので、何とかジェスチャーも交えれば、コミュニケーションが取れるのではないか・・・と思った。
しかし、子供は完全な文章も作れず、「F」や「TH」の発音もうまくできないので、ますますわかりにくかった。
ネイティブスピーカーの子供でも発音習得には苦労するようで、「TH」が発音できないときに、「F」を使ったりする（「スロー」というべきところを「フロー」などと発音していた）ので、聞いていて余計に混乱した。
私は当時、日本の高校と大学で英語を専攻し、英検2級を持っていた。
ただ、そこから上には行けなくて、英検1級を受験しては落ちるということを繰り返していた。
でも、まがりなりにも英検2級を持っているのだから、もう少し何とかなるだろうと思っていた。
だが、現実はそんなに甘いものではなかった。
英検2級程度の語学力では、現地では全然使いものにならなかった。
私の英語力は、フタを開けてみたら、現地の4歳の子供以下だった。
10代の大切な時期を英語に捧げてきたつもりだった私には、屈辱だった。
一年の留学期間のうちに、何とかものにしなければ。
悲壮な決意をして、一年間は日本語を封印しようと決めた。
英語しかしゃべらない状況に自分を追い込めば、英語が身に着くのではないかと思ったのだ。
しかし、最初の数ヶ月は、英語も日本語も出てこなかった。
授業に出れば、頭がオーバーロードして寝てしまう。
映画を見に行っても、みんなが笑っているシーンで笑えない。
悔しいから一緒に笑うフリをするが、本当はわかっていないのでどうしても1テンポずれる。
しゃべりたいことがあってもしゃべれないので、ストレスと口寂しさが募り、スーパーでポテトチップスを買ってきて、部屋で隠れて食べていたら、寝室に食べ物を持ち込むなとホストファミリーに叱られたりもした。
日本語を忘れてしまうんじゃないかと思うほど、朝から晩まで英語漬けだったのだが、それでも長く暗いトンネルの中にいるような悶々とした状態が数ヶ月続いた。
そんな状態が4ヶ月ほど続いたある日、本当に突然、ラジオのDJがしゃべっていることがわかるようになった。
毛玉のようにごわーっと絡まっていた「音のかたまり」が、ばらけて意味を成す単位として聞こえるようになった。
いちいち英語を日本語に置き換えて理解していたのが、日本語を経由しなくても、すっと英語のまま入ってくるようになった。
ちょうど、日本語とは別の英語回線が頭の回路の中にできたような感じだった。
霧が晴れたというのか、耳が開いたというのか、うまく言えないが、長いトンネルを抜けて、光が射し込んだような感動だった。
・・・振り返れば、赤ちゃんが言葉を覚えるのに似た経験をしていたのかもしれない。
そこを通り過ぎたら、英語がまた楽しくなった。
(回想シーン終わり）
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まいちゃんのブログを読むと、まいちゃんは、今はまだトンネルの中にいるんだろうなという印象を受ける。
もちろん、まいちゃんの場合、優秀なスタッフもいるのだろうし、日本語を封印しているわけではないから、当時の私ほど追い詰められた心境にはならないかもしれない。
でも、現地の人と思うように話せなくてもどかしい～～・・・という気持ちは共通したものだと思うし、どんなにサポート体制が整っていても、語学習得に関しては、他の人に代役でトンネルを通ってもらうことはできない。
トンネルを抜けるまでの間は、無力感に襲われたり、変なことをしゃべって落ち込むこともあるだろうと思う。
でも、投げ出さなければいつか必ずトンネルを抜けられる日が来るし、がんばってよかったと思える日が、きっと来ると思う。
がんばって、まいちゃん！
今は大変だろうけど、あと少し辛抱すれば、耳が開けてくるはず・・・。
アメリカでの生活は戸惑うことも多いと思うけど、親切でやさしい人たちにもめぐり会えるし、楽しくて貴重な体験もたくさんできるので、悪いことばかりじゃないと思います。
マー君と二人で、力を合わせて乗り切ってください。
先を歩いた同郷の先輩として、陰ながら応援しています。