「サービス」に対する日本とアメリカの考え方の違い（1）

翻訳仲間のTさんとランチに行った。
最近の仕事の状況やおしゃべりで楽しく盛り上がった。
私が最近、大きい会社に出入りしていることを知っているTさんは、
「あそこの会社、カフェテリアがあったよね。どう？カフェテリアのランチ、美味しい？」
と、聞いてくれたのだが、私は
「う～ん。列に並んで、順番が来たら、次々『これとこれとこれ』ってパパッと言わないといけないのが、まだ緊張しちゃうんだよね。
なので、つい、ピザとかサラダバーとか、列に並ばなくても、自分で取れるものばかり食べちゃってて・・・。」
と白状した。
Tさんは「そうそう。日本人って、列に並んで次々欲しいものを注文するの、苦手だよね～」と、やさしくフォローしてくれ、
Tさんのお姉さんが、日本から遊びに来たときに、カフェテリア形式のレストランに行ったときのことを話してくれた。
Tさんのお姉さんも、列に並んで、矢継ぎ早に注文するスタイルに面食らったらしい。数あるメインディッシュとサイドディッシュの中から、メインは肉にするか、魚にするか、サイドはコーンにするか、ポテトにするか、ニンジンにするか、次々と決めないといけないので、焦ってしまったようだ。
とにかくメインやサイドごとに、多いときは10種類ぐらいあるのがガラス越しに見えるのだが、何がほしいかをパッと決めて、てきぱきと「メインはステーキ、サイドはマッシュポテト、グリーンビーンズ、デザートはプディング、ロールパンもつけて」などのように、指示を出さないといけない。列に並んでいるので、あまりぐずぐずしていると後ろがつかえるし、迷惑がかかると思うとますます緊張する。
言葉の壁もあったかと思うが、気が付くと、メインとサイドではなく、マッシュポテトとベークドポテトという2種類のポテトがお姉さんのお皿に乗せられていたそうだ。
「あなたのお姉さん、よっぽどポテトが好きなのねー」と言われたTさんは、しょうがないので「・・・そうですね～」と苦笑するしかなかったそうだ。
あまりにも「あるある」な話なので、涙が出るほど笑ってしまった。
同じようなことを、日本語学者の金田一秀穂さんのエッセイでも読んだことがある。
金田一さんも、アメリカで日本語を教えていたときに、学生たちが食べている具だくさんのサンドイッチを一度食べてみたいと思って行列に並んだが、いざ注文する段階になると、「サンドイッチ、プリーズ」と言ってもお店のおじさんが全然動かない。
白パンがいいのか、黒パンがいいのか、全粒パンがいいのか、ライ麦パンがいいのか、パンの種類を指定するところから始めなければいけなかったのだ。
なんで「パン」だけじゃいけないのか、と思ったが、ライ麦パンという英語しか知らなかったので、ライ麦パン、と言ったそうだ。
具や中身も事細かに、レタスとトマトと玉ねぎとピクルスを入れ、肉はハム、マヨネーズとマスタードを塗って・・・などのように指示を出さないと作ってくれない。
後ろに人を待たせているので悪いと思った金田一さんは、さらに焦って、「ハムサンドイッチプリーズ！」と口走り、結局ライ麦パンにハムをはさんだだけの、貧相で味気ないサンドイッチを食べる羽目になってしまった。
脂汗をかきながら必死に注文したのに、頭で思い描いていたおいしそうなサンドイッチとはあまりにもかけ離れた、大嫌いなライ麦パンのサンドイッチを食べることになってしまった。
・・・というような話だったと思う。
なんでアメリカでは、食べ物を作ってもらうこと1つにしても、ああしろ、こうしろと指示を出さないといけないのか？
めんどくさいじゃないか。
「おまかせ」ってのはないんですかね？
大体、客として行っているのに、なんで窮地に立たされたような困った気分にさせられなければならないのか？？
何だか腹が立ってきた。
しかし、むこうには悪気は全然なく、いいサービスをしてあげようと思って言ってくれているのだ。
商売をしている以上、お客に恥をかかせようなんてことは、みじんも考えていないはずなのだ。
そこで、アメリカの「サービス」というものを考えてみると、本質的に日本とは全然考え方が違うんじゃないか、と思い当たった。
どこが違うか、ということは、長くなってきたので、また明日詳しくお話ししたいと思います。