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翻訳の鮮度

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皆さま、こんにちは!
お元気でお過ごしですか?
このところ、私が尊敬する作家の村上春樹さんと翻訳家の柴田元幸さんの共著の『翻訳夜話 (文春新書)』を読み直しています。
この本の中でお二人が、翻訳には賞味期限がある、という話をしていらっしゃるんですね。
この話が特に興味深いと思っていて。
村上さんは、小説には時代的インパクトというものがあるっておっしゃっているんですね。
原作が出てから翻訳が出るまでの間に時間が経ち過ぎちゃうと、気が抜けた印象になると。
「気が抜けた」って、ちょっと炭酸飲料みたいですが(笑)・・・。
私もそう思います。
小説に限らず、産業翻訳でも同じことが言えると思う。
言葉って、古くなるんですよね。
それで思い出したエピソードがあるので、ご紹介します。
私が駆け出しの頃、NYの日系新聞社のプレスリリースの翻訳をしていたことがあるんですが。
(詳しい経緯は「私が翻訳の仕事を始めたきっかけ」というブログに書きましたので、よろしければご覧ください)
プレスリリースの翻訳って、朝10時に英語の原稿が来たら、同じ日の午後2時までに納品しなきゃいけません。
その日の夕方には、完成版を日本に配信しないといけませんから。
時間が勝負でした。
来る日も来る日も即日納品。
しかも手強いのは、プレスリリースって、要は新製品の紹介だから、コンセプト自体が新しすぎて日本語の定訳がないものが多いこと。
そうなると「造語」を作らないといけない。
だけどひょっとすると、私が知らないだけで、実は既に定訳があるものもあるかもしれない。
だから私の無知のせいで用語にばらつきが出ないように、必死で調べまくるのですが・・・
(・・・ひょっとして特許の翻訳をしていらっしゃる方も、同じような苦労をされているんじゃないでしょうか?)
まあ、造語の苦労については、また別の機会に話しますが・・・。
・・・で、プレスリリースの翻訳をしていたある日、映画の新作に関する記事が来たんです。
主演はトム・クルーズ。タイトルは「Mission: Impossible」でした。
そう、大ヒットになった「ミッション: インポッシブル」です。
英語の「Mission: Impossible」というタイトルを見て、私、調べまくりました。
どういう作品なんだろう?
そしたら、この作品は1966年から1973年まで放送されたアメリカ合衆国のテレビドラマの映画版で、日本では「スパイ大作戦」という題のテレビドラマとして公開されていたことがわかった。
そこで私は、「スパイ大作戦」と訳したんですね。
トム・クルーズが、「スパイ大作戦」の映画版に出ることになりました・・・と。
自信満々でしたよ。
きちんと裏も取ったし、間違いない!・・・と思っていました。
・・・ところが、いざ日本で公開されてみると、タイトルが「ミッション: インポッシブル」になってるじゃありませんか!
いやー、頭をガンと殴られたような衝撃でしたね。
「インポッシブル」なんて日本語ねえよ!
そんなタイトルこそ、インポッシブル(不可能)じゃねえの?
親切にドラマ版の日本語タイトルまでわざわざ探してあげたのに、結局そのまんまカタカナかよ!それって手抜きじゃね?

・・・って思ったんですね。
当時は怒り心頭でした。
・・・だけど冷静になって振り返れば、映画配給会社としては、「スパイ大作戦」との差別化を図りたかったんだろうなって思うんですよね。
テレビドラマが作成されてから30年経っていたし、たとえ英語の原題が30年前と同じ「Mission: Impossible」であったとしても、日本語版ではイメージ刷新を打ち出したかったんでしょう。
まあ、まったく別の作品に仕上がっていましたしね。
・・・翻訳者的には、「ミッション: インポッシブル」では芸がなさすぎね?・・・と、釈然としない気持ちになったことは事実ですが・・・
・・・でもそのときに私が学んだのは、原文が同じであっても、時代が変わると訳し方を変えていく必要がある場合があるということ。
そして若い世代には「ミッション: インポッシブル」というタイトルの方がウケがいい・・・ということもある、ということでした。
時代の流れと共に、言葉は変わるんですね。
そういう言葉の変化は、現地で暮らして肌で感じていないと、なかなかついていけません。
翻訳者は、そういう変化にも敏感でありたいですね。
村上さんはサリンジャーの「Catcher In the Rye」、これまで野崎孝さんが「ライ麦畑でつかまえて」と訳しておられた作品も「キャッチャー・イン・ザ・ライ」というカタカナタイトルに訳されています。
「ライ麦畑でつかまえて」もすごくキャッチーでいい訳だと思うけど、あえてカタカナにした、というのは、やはり全く違う作品として読んでほしいという村上さんの願いもあったでしょうし、
今の世代にしっくり来る訳として、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」という訳になったのではないのかなー、と思います。
ちなみに、産業翻訳の現場で「キャッチャー・イン・ザ・ライ」なんてやると、クライアントから袋だたきにあいます(・・・と思う)。
でも文芸翻訳では(特に)、センスのいい訳出になるか、カタカナまんまの直訳と取られるかは本当に紙一重だと思うんですよね。
誰がいつ翻訳するかによって、評価も大きく変わってくる。
・・・だからこそ翻訳って、奥が深いなぁと思います。

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