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字幕翻訳者・戸田奈津子さんの翻訳について考えたこと(4)

戸田さんの誤訳・珍訳の検証を続ける。
戸田さんの誤訳の例としてよく挙げられる代表的作品に、「ロード・オブ・ザ・リング」と「フル・メタル・ジャケット」があることがわかった。
特に、「ロード・オブ・ザ・リング」は、全面的にやり直しになったと聞いている。
その他、「~せにゃ」、「かもけど」などの古くさい、または不自然な表現についても指摘されている。
このようなことを考えあわせて思いつくのは、戸田さんと視聴者の年齢、また感覚の開きが大きくなってきているのではないかということだ。
私自身の体験と比較するのはおこがましいが、私も多少理解できるところがある。
私もひょんなきっかけで翻訳に足を踏み入れてから今年で18年目になるのだが、ここ数年、スマートフォンやSNSの普及で、言葉が大きく変わってきたと感じる。
「スマホ」とか「アプリ」とか、何でも短くしてしまう風潮や、ツイッターで「XXなう。」などと発信する感覚に、テクノロジーだけでなく、新しい時代の到来を感じさせられた。
日本語だけではなく、英語も大きく変わっている。しばらくぶりにアメリカに戻ったときも、いつの間にか「テキスト」という単語が動詞化されていたり(←SMSメールを入力して送るという意味)、Facebookの「いいね!」をクリックしてください、という表現が「Like us!」などとピザの箱に印刷されていたりして、「はぁ?Like usって何?好きになってくれって、何???」と目を白黒させたものだ。10年近くアメリカを離れている間に、自分はすっかり浦島太郎になってしまったと感じ、遅れを取り戻すのが本当に大変だった。
ちょっと脱線したが、専門こそ違うけれど、戸田さんよりも年下の私でも、新しい時代についていこうとするのに苦労するぐらいなので、私よりもさらに年齢差が大きい戸田さんが現代の作品についていくのは、並大抵のことではないのでは・・・というのは容易に想像できる。
ましてや、「ロード・オブ・ザ・リング」なんて、原作こそ古いけれど、SFとファンタジーの融合した作品である。年配の女性に感覚をつかめという方が酷なのではないか、と思うぐらいである。
「フル・メタル・ジャケット」は軍隊が舞台の作品である。
訳すのがはばかられるほど汚い表現が飛び交う。
これもきっと、戸田さんにはなじみのない世界だっただろうと思うのだ。
一口に翻訳者と言っても、得意分野と不得意分野がある。
自分の興味がある分野であれば、語彙も多いし、熱意を持って取り組めるけれど、興味もなく苦手な分野の仕事が来ると、どうしてもセンスが鈍るし、日本語でさえ言い方を知らない特殊な世界を翻訳しなければならないとなると、至難の業である。
しかも、戸田さんが手がけた作品数は膨大な数である。公開日に間に合わせるために、ひたすらベルトコンベアの流れ作業のように翻訳をこなしたこともあったのでは、とも簡単に想像できる。大御所だからという理由で、面白いとも思えない作品を任されることもあっただろうと思う。
このように考えてくると、私たちは戸田さんの誤訳をあげつらうよりも、戸田さんに匹敵する後継者が十分に育っていない現状を問題視した方が、建設的なのでは?と思えてくる。

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